つまるところは単純な話

いただいたコメントに回答する、という形で、考えを記録しておきたい。

1.

共産党が神谷さんを除籍するのは、党則に照らして当然。その党則はおかしい、支持できない、ということは私も思うけれども、そうであっても、「悪法も法なり」である。党則に世論が優先してよいとすると、世論の多数派が納得するような党則以外は有名無実となり、政党の多様性は明確に毀損されてしまう。

私は多くのことについて少数派に属する者なので、幼少期から一貫して多数派の専制を強く警戒してきた。多数決は「仕方ない」が、多数派に迎合することしか許されない社会では、私のようなものは生きづらい。

政党は多様であるべきで、多数派の見解と主張が一致する政党しか存在しない社会は、ひとつの最悪の形だ。共産党は個性的であり続けてほしい。共産党が誰を党員と認めるかは、外部の多数意見ではなく、共産党内のルール・基準で決定すればよい。

神谷さんは、仲間を説得し、党則を変える(あるいは党則の解釈を変える)ことに成功しなかった。であるならば、従来通りの党則の解釈に従って、除名されて当然である。

「政策」は独自性を認めるが、「党運営」には独自性を認めない、という切り分けもあり得るし、私もそれは「全」否定はしない。政党も様々な法律に縛られるのは当然である。が、神谷さんの除名が、法律に抵触するようなことかどうか。議論の余地はあり、訴訟沙汰にもなり得るが、少なくとも「明白に法律違反」ではない。

実際、世間の反応も、「こんな除名は違法だ」ではなく、「こんな除名はロクでもない」「共産党は支持を失うだろう」といった内容であった。

共産党が支持を失って滅び去るのは構わない。有権者の2%未満の支持しかない政党には、足切りラインが迫る。議論にかけられる労力は有限であり、あまりにも少数派なら議席を持てないのは仕方ない。

共産党という特定個別の政党の存廃はどうでもよく、共産党が我を貫くことで、「日本の社会はかくも特殊な集団も包摂する」と示してくれることを期待している。そのことが、「共産党とは別の少数派」である私の安心材料となる。

私は「世間の圧力が、法律違反をしているわけでもない少数派に対して、強制力を持つようなことが絶対にあってはならない」と考えており、世間にもいろいろな意見があるぞ、という思いでブコメを書いた。世間が一枚岩になって批判を浴びせたら、「事実上の強制力」が生じてしまう。私はそれに抗いたかった。

2.

私は韓国のユン政権を大枠で支持している。韓国の野党とは全く意見が合わない。

だから、ユン政権には安定的な政権運営をしてもらいたい。韓国の大統領は 1 期限りで再選は不可なので、ユン政権の政策を引き継ぐ人が後継者になってほしい。

現状では、どちらも望み薄である。

ユン政権は多数派世論との付き合い方を誤っており、自分が正しいと思うことを、お説教し続けるばかりだ。形式的には、野党への攻撃という形を取っているが、結局、それは野党を支持する多数派有権者への攻撃に他ならず、そんなことを続けても喜ぶのはコア支持層だけだ。

人を説得するのは私も苦手だが、それでもユン政権のやり方が正しくないことは、わかる。現に失敗し続け、今春の国会議員選挙でも惨敗しているのだ。

除染水の海洋放出について、ユン政権の主張は正しかった。事実によって論争での勝利が明らかになったことは、喜ばしい。科学的事実を踏まえれば、勝利は最初から確実だったが、不安に駆られている人に言葉は通じず、事実を示す以外に説得の手段はないだろう。

いま、野党に「謝罪しろ」ということで、ユン政権が得をすることは何一つない。

せっかく事実によって世論を説得する道が開けたのに、謝罪を望めば相手は頑なになり、どんな事実も認めない態度、あるいは、このテーマをなかったこととするような態度を取るであろう。

いまユン政権が多数派世論に支えられており、野党支持者の気持ちなど「どうでもいい」といえる状況なら、それでもいい。だが、現実はその反対である。

次の大統領選で後継者が敗北すれば、ユン政権の成果など、軒並みひっくり返されてしまう。それ以前に、与党の大統領候補が、ユン政権の政策を引き継ぐ人になるかどうかさえ、怪しい。

ユン政権が不人気である以上、与党候補は「現状を変える」と訴える人になるであろう。この時、「やり方だけ変えて政策は維持する」とは、必ずしもならない。人気取りのために政策も変わってしまうことは、十分に考えられる。

そういうわけで、私は「ユン政権には、どうでもいいようなことで世論とケンカしてほしくない」のだ。

3.

「強者こそ謙虚に」は、処世術である。

共産党は滅びていい存在なので、処世術など無視していただいて結構。むしろ世論とどんどん対立して、日本の政治的自由の限界を実証し続けてほしい。

逆にユン政権にはうまくやってもらいたいから、処世術をないがしろにしてほしくない。

つまるところ、そういう単純な話だ。