『モフモフ工房』の裏テーマ

『モフモフ工房』はセットコレクションのゲームなのですが、本当は違います。

いや、袋の中を見ずにフェルトボールを取り出し、場に出ているカードと一致したらカードを取る……という意味では、確かにセットコレクションです。

でも、元々は……というか、作者が意図した本当の遊びどころは、違うのです。

今日は、そのあたりの話を書きます。

ゲムマでは以前から、「ふつうの人にはわからない微妙な差異を判別する」系のゲームが、あるじゃないですか。私はあれ、好きなんです。ストレートにカルタゲームの形式を取っている作品が多くて、「もっとバリエーションがほしい」と以前は思っていたのですが、「カルタゲームという形式で競作している」と捉え直してからは、むしろ「カルタゲーム形式大歓迎」と思うようになりました。

私もリンテックの業務用シール紙見本帖を更新する際、古い方を捨てるというので引き取ったものがあって、それでひとつ追従作品を作ろうか、なんて検討した時期がありました。一応、各ページから8つサンプルを切り取れるようになっていたから、「これで8個生産できるじゃん」と。私の作品は、基本の生産数が8で、後はその倍数。16個くらいで打ち止めのことが多いです。ちなみに『モフモフ工房』も16個しか作っていません。

リンテックの業務用シール紙」カルタは、さすがにマイナー過ぎて誰も欲しがらないよな……と思って、試作品が無期休眠となったのですが、後から思ったのは、「別にこれ、リンテックの業務用シール紙に興味なくても、ゲームとしては全然成立しているよな」と。

裏返してしまえば、シール台紙しか見えないわけです。裏返したまま、触感だけ確認できるルールにすれば、「自由に全部触っていい神経衰弱」になるわけですよ。

目で見る神経衰弱の場合、全部オモテにしちゃったらゲームにならない。ところが、触覚ベースの神経衰弱なら、全部触ってもOK。レーザー加工機などで板材の表面を加工する場合、精度の問題があって、ほんの僅かな差でそれぞれに均一な物を作るのが難しい。その点、リンテックの業務用シール紙見本帖は素晴らしいですね。究極、オモテにして目で見てしまえば、微妙な光沢の差異とかで「なるほど、あれとコレが同じもので、そっちとこっちは別のものなのか」と納得させられます。

広報上のパワーがなく、誰にも「ほしい」「遊んでみたい」と思ってもらえないだけで、作品としては成立していたのでした。

話を戻します。

本来、私が作ろうとしていた『モフモフ工房』は、触感だけでフェルトボールを分別するゲームでした。

ルールは、こうです。

まず、袋の中には、各色1個のフェルトボールが10個入っています。最初にランダムに5つ取り出し、これを記録します。ボールを十分に観察し、手先の感触を覚えてから、袋に戻します。さて、再び同じ5つのフェルトボールを取り出すことができるでしょうか?

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ふつうなら、これは単なる運ゲーです。でも実際には、フェルトボールって、ひとつひとつ「個性」があるんですね。だからこれは、運ゲーのようなフリをした「指先アブストラクト」なのです。

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全部でフェルトボールはたったの10個。全て覚えてしまえば、楽勝。ところが、それが難しいのなんのって。見た目にはハッキリ違いがわかるのに、なぜ指先ではわからないのか。

これはリアルのゲームでなければ経験できない体験だと思います。『モフモフ工房』をお手に取っていただいた方は、そのコンポーネントを使って、ぜひこの遊びをやってみてください。『モフモフ工房』のフェルトボールは6色で、サイズも2種類ありますから、大幅に簡単な「6個中3個を繰り返し取り出すゲーム」となります。6個中3個なら、運だけでも結構、当たります。が、自信を持って当てるのは、これでもかなりの難題です。

もう少し脱線。

フェルトボールは、同一仕様のものとして一袋に入っていました。なのに、見比べると、実に個性的です。なるほど、ボードゲームでの採用例を見かけないわけだ、と思います。

私はフェルトボールが好きで、これをゲームのコンポーネントにしたいと、長らく思って来たのですが、テストプレイでは毎度、不評なのでした。ゲームのプレイヤー駒とか、得点ボードのマーカーとか、そういう用途でフェルトボールを使うと、みんな「これじゃダメ」というのです。

デカい、フワフワモフモフ、軽すぎる、不定形……それは欠点じゃなくて個性だよ、と私は思っていたのですが、声高に言い募っても仕方ない。個性というのは、合わないところに無理やり当てはめても輝かないのであって、それなりの舞台を整えないと、魅力に転化しないようです。

だいたいボードゲームコンポーネントというのは、カードにせよ、コマにせよ、指先で判別がつかないようにできていることが多いわけです。フェルトボールのようにひとつひとつが個性的では、ふつうのゲームには使いにくいのでしょう。

でも、「同じ5色を再び取り出す」ゲームなら、その個性が活きてきます。

キッチリ同じ形なら運否天賦でしかないものが、小さな違いがあるから、「当てに行ける」のです。

私はこういう、「元は運任せだったものを、運任せではない形にする」のが好きです。『カエサルは賽を投げない』は「サイコロを振らないスゴロク」ですし、『ビンゴチェンジャー』『ダブルビンゴカルテット』は「自分で数字を作るビンゴ」、『坊主ガチャHYPER』は「それが坊主札かどうかを判別するための情報が完全に公開されている坊主めくり」です。

結果として面白くなるかどうかは、テストプレイの感想を見る限りでは微妙。特別なアイデアがないなら、素直にサイコロを振らせて、他のところに面白味を付ける方がいい、のでしょう、たぶん。

で、フェルトボールの「同じ5色を再び取り出す」ゲームまで話を戻します。

結局、これは難し過ぎました。作者自身、半日ずっと頑張っても、「運任せと大差ない」状態のまま。ゲーム会とかで15分遊ぶ間に、「あ、違いが分かってきた!」とは、ならない。おみくじゲームを作りたいなら、別にそれはそれでよかった気もしますが、私の場合は違っていたので、この方向は諦めました。

さて、やっと『モフモフ工房』に話が戻ります。

『モフモフ工房』は、オーソドックスな、運否天賦で袋からトークンをひいていくセットコレクションのゲームに、見えます。でも、違うのです。運否天賦ではない、のですよ。

先ほど、「同じ5色を再び取り出す」ゲームは難し過ぎた、といいました。実質、運否天賦のゲームになっていた、と。

では、『モフモフ工房』は、何が違うのか。

その答えは、袋の中のフェルトボールの数、です。

『モフモフ工房』のフェルトボールは約70個です。これだけ数があると、なかなかに個性的な、私でも指先で判別可能なフェルトボールが、いくつかあるのです。他の人がそれを先に取ってしまう可能性は、もちろんありますが、完全な運任せとは、明らかに違うのですね。プレイに、軸ができるのです。

運要素強めのゲームではあるので、結局、数個を判別できたところで、毎回圧勝なんてことにはなりません。でも、だからこそ「いい塩梅」だと、私は思っています。

ボドゲ製作の趣味を始めてから、他の方の様子も少し眺めるようになったのですが、コンポーネントの傷とか、不均一とか、気にされている方が多いわけです。たぶんその方の作品においては、問題なのでしょう。でも、一概に不均一がダメってことはないわけです。傷があったって、私のところでは問題なかったりするのです。傷を目印に、指先で判別できることを「よし」とする作品を、本当のところ、私は作りたいわけです。

『モフモフ工房』の「袋からフェルトボールを取り出す」場面、大半の方は運任せになると思います。でも、ごく一部の敏感な方は、「あれ? 全部は無理だけど、一部は、意図的に選んだり除外したりできるぞ? これでいいのか?」と不安になるかもしれません。
ごめんなさい、それ、作者の意図したことなんです。指先感覚で、フェルトボールの違いが分かってしまう、その繊細な感覚を褒め称えるゲーム……それが『モフモフ工房』の裏テーマなのです。

……という話、説明書には一言も書いてありません。敢えて、書きませんでした。