チケットの転売価格が高くなる条件

供給が需要を上回ると急速に値崩れする性質がありそうで、席数の調整が可能ならそれがベストと思います。ただ、その裏返しとして少しの需要の過剰で買占めが効果を持つかなと。

Berryz工房活動停止コンサートのときは、いったん価格が定価の3倍近くまで上がった(注:良席保証のない席番不明のチケットでその価格)一方で、当日朝には定価割れにまで下がりました。そうした事例を見ると、ほんの少しの需要不足で……というご感想になることも理解できます。ただ、Berryz工房ラストコンの場合、次のような特殊事情がありました。

まず、転売元となるファンクラブ会員の先行販売が大激戦となり、転売目的ではないファンがほとんどのチケットを押さえたため、転売市場に流れたチケットは数量が限られていました。

すると、少ししかない転売チケットに抽選に漏れたファンが飛びつくことになり、たいへんな高値になりました。

これは「すべてのチケットの価値が3倍になった」ことを意味しません。わずかなチケットしか市場に出なかったので、定価の3倍でも買いたい人たちの需要しか満たせなかった、ということです。価格曲線の意味を考えてみてほしいのですが、商品の価値は人それぞれなわけです。ごく僅かな人たちは、定価の何倍もの価格でも見合うと考えるし、逆にタダでも興味ないという人も多いわけです。市場価格というのは、結果的に需要と供給が均衡する価格に過ぎず、それが「チケットの普遍的の価値」を表すわけではない。

Berryz工房ラストコンでは、ライブビューイングと衛星中継が半ばサプライズで決まったことで、転売市場に潤沢にチケットが供給されるようになり、自ずと需要と釣り合う価格は低下していきました。LVと衛星中継がない前提では、転売市場の価格が定価の3倍でもチケットを売らなかったファンたちも、その「たとえ3万円でも売らない」という鉄の意思は、「会場へ行かなきゃBerryz工房の最後の姿を見れない」という前提に支えられていたのであって、「自宅でも見られるならチケットを手放してもいいや」となった方も、かなりいたわけです。

最終的には需要と価格がほぼ一致したBerryz工房活動停止コンサートも、一時的に価格が急騰したそのときには、大幅な需要超過と供給の過小があり、値段の高騰は、その非常に限定された市場の答えに過ぎなかった、ということです。

ふだんはどうかといえば、「コンサート初日の評判を聞いてから行くかどうかを決める」といったファンが相当に多いんですね。だからファンクラブ先行で多少の落選が出ても、じゃあ転売市場が盛り上がっているかといえば、別にそんなことはなく。せいぜい定価の2~3割高程度なんです。

そして、たいていツアーが始まると価格が下がってしまう。結局、FC先行で落選したからといって、まだ始まってもいない(出来の良し悪しが不明な)ツアーのチケットを買うのは熱心なファンだけで、後からチケットを買いに来る人たちは価格に対してシビア。よほど評判のいいツアーでもない限り、価格は下がってしまう。

では評判が良かった場合はどうなるかというと、これも意外とそれほど価格が上がらない。評判が良ければ、ツアー発表第3弾でアグレッシブに公演が追加されることを、過去の経験からファンの方もわかっているからです。「もうちょっと下がるのを待とう」というファンが多数派なら、コンサート当日付近の価格は定価割れさえ起こしてしまう。

一般販売が30分ないし数時間で完売するようなツアーでも、そういうことが起きているというのが、転売市場を眺めていて知った、意外な事実なのでした。

えっと、話の本筋が見えにくくなってしまったので、あらためて整理します。

チケットを買い占めて、ちょっとだけ転売市場に出せば、定価の何倍もの価格でも売れます。が、買い占めたチケットを全部転売しなければ、転売屋は大損するわけです。だから結局、いくら買い占めても、たくさんのチケットを高値で売り抜けることは不可能なんですね。高値でも買う人は、人数が限られているからです。元の定価が均衡価格だった場合、仮に全部のチケットを買い占めた業者がいるとして、その全部のチケットを転売するためには、均衡価格である定価で転売するしかない。これでは、手間賃の分だけ丸損です。

そもそも論として、主催者はチケットの独占販売者なわけです。独占商品だから値段を吊り上げることが可能だというなら、主催者はいくらでも値段を吊り上げることが可能という話になる。いや、実際、吊り上げ自体は可能なんですけど、値段を上げれば売れる枚数は減るんですね。主催者が、需要と釣り合う価格より高値でチケットを売れない(安く売る分にはいくらでも可能)ように、買占めを行った転売者も、需要と釣り合うだけの値付けしかできないのです。

Berryz工房ラストコンのときは、FC抽選に外れた人が大勢いて、それなのに転売市場に出たチケットが僅かだったので、定価の3倍にもなりましたけど、それは「転売市場で価格が3倍になっても大多数のファンはチケットを転売しなかった」からそうなっただけの話で、もともと転売屋が多くのチケットを確保しているふだんのツアーの場合、価格が上がればどんどんチケットが転売市場に供給されてしまい、結局、それだけの枚数を捌ける価格にしかなりません。

転売目的のチケットは、必ず転売市場に出品される、という事実は見落とされがちです。

需要が供給を少ししか上回っていないのに転売屋が大儲けできるとすれば、転売屋が「チケットのごく一部しか確保できていない」うえに、一般のファンも「転売市場の価格が跳ね上がっても転売する気がない(転売屋以外に転売市場にチケットを供給する者がいない)」という特殊な状況に限られます。

はてブによくある誤解とは逆で、チケットの1次消費者に占める転売屋の割合が高いほど、転売価格の高値実現は困難になります。転売屋が多くのチケットを押さえたならば、転売市場にはそれだけ多くのチケットが流れることになり、その大量のチケットが売り切れるだけの価格にしかならないからです。

世間をにぎわすのは定価の10倍とかのチケットですけど、良席価格ならともかく、席番不明でも定価の数倍にもなっていたりするのは、じつは転売屋がチケットを僅かしか持っていないことの間接的な証拠なんです。転売市場にちょっとしかチケットが出ないから、高値でも買える人の分にしかならない。10倍も100倍も転売市場にチケットが流れれば、自ずと価格は下がるということです。

追記(2016-12-11 19:55:55)

上記では inade9 さんの懸念を否定しましたが、実際には、小さな規模であれば、ご懸念は当たっていると思います。

チケットという商品には特殊性あります。それは、多くの消費者にとって、「買ってもいい値段」より「売ってもいい値段」の方が高い、という点です。これは骨董品や、趣味で収集されるコインや切手などに似ています。収集していた当人が亡くなたり、飽きたりすると、安値で売られるので、再び市場に出てくるわけですが、平素は買ったら買ったままになるわけです。

この特徴があればこそ、転売屋は「たとえ定価が市場均衡価格に近くとも利益を出せる可能性」が生じます。

ほしい人が全員、定価でチケットを購入できるなら、高値での転売は、不可能です。けれども、実際には「気づいた時には売り切れていた」「予定が立ったときには売り切れてた」とか、様々な理由で、買いそびれた人が存在します。

正確にいえば、本当にチケットの価格が完全に市場均衡の価格であったなら、買いそびれた人の分も、公式にチケットが売れ残っているはずであり、転売市場で定価より高く売りつけようとしても失敗するわけです。だから結局、一般販売当日にチケットが完売する、みたいなケースは、全て定価が市場均衡価格より安いことを意味しています。

ハロプロで時々ある「当日券は抽選」も、当日券の価格が微妙に安いことを意味しています。ただ、そんなにドンピシャの値付けができるわけもなく、少し安く値付けして、多少の機会損失は甘受して、それよりか商売上のリスクを小さくする方が、総合的には合理的でしょう。

だからここでは少し幅を持たせて、微妙に安値、というあたりまで「市場均衡価格とほぼ一致する定価の範疇」ということにします。

でまあ、転売の話ですけど、もし一般人が、「自分が買った値段より1円でも高ければ自分もチケットを転売市場に出す」という考えだったなら、定価が市場均衡価格の場合、転売屋が利益を出す余地はゼロです。高値で売ろうとしても、一般人がすぐに対抗出品するので、結局、市場均衡価格でしか、チケットは転売できません。

でも実際にはそうならない。転売市場には少しのチケットしか供給されないので、「上客」の需要だけしか満たされない。だから、一般市場より高値で、転売市場の価格は均衡する。事務所が値上げしたらチケットは余るのに、転売市場では少し高い値付けをしても売れる、ということです。

事務所が定価をほんの少し安く設定して、チケットを完売させると、定価が市場均衡価格とほぼ一致しているにもかかわらず、転売市場の価格は定価より高くなります。

先の記事に示した通り、転売屋が高値を付けられるのは、転売されるチケットが僅かしかないことに依拠しています。本来の市場より、圧倒的に供給を絞られていることを利用し、上客だけにチケットを売る、それが値段吊り上げの仕組みです。

転売市場に大量のチケットが供給されれば、それだけたくさんのチケットが売れる値段にしかならないわけです。あくまでも、少しだけしか売らないから、高値を出してもいいと思う客とだけ、取引することが可能なんですね。

さて、市場均衡価格にほぼ一致する定価でチケットを買った一般人は、もし自分がチケットを手放すなら、買った値段よりずっと高い値段でしか認めないぞ、と思っている。一般人は転売屋と異なり、買ったチケットを自分で消費するのが本来の意図なので、売り抜ける必要がないから、思うままの値付けができるわけです。

この特性ゆえに、定価が市場価格とほぼ一緒であっても、一般販売でチケットが完売している限りにおいて、転売市場では定価より高値での取引が実現します。

もちろん限度はあって。定価の5倍、10倍まで行けば、一般人だって「チケットを自分で消費するより、いまは売って儲けようかな」と思う。転売市場の価格が上がっていくにつれ、一般人の出品も増えていき、どこかで均衡します。それでも「定価+1割、2割程度」では、山が動く気配がないように、私には見えます。

こうしてみると、一般販売でチケットが売り切れるかどうかって、かなり重要です。もちろん事務所は売り切りたい。でも、ギリギリの水準であっても、売り切れが生じるかどうかで、転売市場価格には段差ができます。

なお、転売市場には「良席価格」があって、そっちに目を奪われると、公式販売でチケットが売り切れてないのに高値で転売されてるチケットがあるぞ、という話になって、よくわからなくなってしまいます。良席価格は上記とは別の原理で値上がっているので、話題から外しています。

はてなハイクより転載)