ハロプロとチケット転売について

1.

ハロプロの場合、定価と転売市場での取引価格がほぼ同じになっている。より正確にいえば、「良席」は定価より高く、「ハズレ席」は定価より安く売買されており、平均すると定価より少し高めとなっているけれど、転売の手間暇や諸手数料を考慮すると、趣味ならともかく本業として転売で稼ぐなのは不可能な水準となっている。

チケット転売問題では「運営がチケットをオークション方式で売ればいい」とよくいわれる。私もこの見解に「基本的な考え方としては賛成」だが、現実問題としては、ハロプロのやり方がいちばん賢いと思っている。

というのは、一席ずつオークション方式で販売するコストは、ITをいくら駆使してもバカ高く、僅かな売上増では吸収できないからだ。細かな価格の調整は、大勢が「趣味」として参入する転売市場に任せてしまう方が合理的だろう。ただし、この書きようからもわかる通り、定価と市場価格(の平均)に「僅かな差しかない」ことが、うまくいく条件になるだろう。

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ハロプロの転売チケットは、実際にチケットキャンプやヤフオクで調べてみればわかるが、大半がファンクラブ先行チケットが供給源となっている。それで事務所が何か困っているかというと、何も困らない。むしろ助かっている。

転売目的のファンクラブ会員は、僅かな利益を期待してチケットを公演の準備が始まる前から大量に買う。武道館など大箱公演の会場プラン(これで席数が決まる)は、このファンクラブ先行販売の売り上げを参考にしていると考えられ、人気公演でも、集客が危ぶまれる公演でも、ここ数年、ハロプロの大きな公演で大外しをやらかした例は少ない。転売市場の存在を前提とすれば、ファンクラブ先行の売行きは、特殊な先物取引市場とみなすことができる。だからこそ、ファンクラブ先行の売上は、主催者側にとって「使える」情報となるのだ。

定価の不合理は、商品の供給量を変えられない場合に決定的に現出する。しかしハロプロのように、ファンクラブ先行で公演の人気・不人気がわかるなら、供給量を調整できる。

座席が足りないなら、ステージを縮小して、なるべく座席を増やす。ステージを斜め後ろから見るような席まで開放する。全国の映画館でライブビューイングを設定したり、衛星放送で中継を設定したりもする。衛星放送も、有料放送にするか、無料のBSチャンネルを使うかの選択肢がある。

逆に席数が多すぎるとわかれば、大箱での特別公演なら様々な演出によって席数を減らせる。ツアーでは細やかな調整を行えないので、シンプルに2階席や後方の席を暗幕などで閉鎖する。ファンクラブ先行の時点で会場と日時は決まっており、会場の変更は無理だが、ツアーの発表を2段階、3段階にしているのは、先行販売のデータを見て未発表のツアーの公演数を調整する余地を残すため、という意味もあるだろう。「不人気で公演回数が減った」ことは明確に観察できないが、増える方は割とわかりやすい。通常は1日1公演なのに、2公演、3公演になったり、追加発表の日程の中に、ふつうはライブをしない曜日の公演があったりすると、「ああ、増やしたんだな」となる。

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Berryz工房の活動休止コンサートの会場は武道館で、チケットの定価は1万円だった。ファンの間では「安すぎる」といわれ、ファンクラブ先行は落選続出、一般販売分も秒単位で蒸発した。ところが、ライブビューイングと衛星中継がサプライズ発表されると、転売市場は急に落ち着いた。最後にダメ押しの立見席開放があり、転売市場の「当日朝」価格はハッキリと定価割れした。事務所の市場価格見積りの正確さが如実に現れた事例のひとつである。

その前にハロプロでチケットが高騰したのが道重さゆみ卒業コンサートだったが、この時ばかりは事務所の読み誤りで、供給を増やす策を全て打ったにもかかわらず、当日朝の転売価格も定価の2~3倍だった。Berryz工房活動停止コンサートでは、その件の火消しが入ったという感じがする。つまり……ハロプロのチケットは転売を本業とするような人々が参入するのは難しいですよ、という示威行為。

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2016年冬のハロコンでは、「SS席」が販売された。結果、転売市場は停滞し、空席が目立った。空席が目立った理由は複合的だろうが、「SS席」を作ったことも、その理由のひとつだと私は思う。

転売市場の停滞は、次のように説明できる。

「SS席」と「S席」が分かれたことで、「定価よりずっと高く売れる可能性がある席」は「SS席」だけになってしまった。従来、ハロプロチケットの転売市場参加者は、一部の「良席」で利益を出し、「ハズレ席」の損失を埋め合わせていた。となれば、転売目的でファンクラブ先行のチケットを買う場合、「S席」のチケットを買う意味がない。儲からないとわかりきっている席を買っても仕方ないからだ。

結果、S席の先行販売は振るわず、一般販売でも完全にダブついてしまった。前売り完売できず、当日券を出しても埋まらない、ということになった。

ハロプロのチケットは高めなので、「定価では行く気がしない」というファンは、これまで転売市場で定価割れのチケットを買って会場へ足を運んでいた。つまり、従来、会場を埋めていたファンの一部は、「定価でしかチケットを買えないなら、そこにはいない」ファンだった。

ならば定価の安いA席、B席の類を売り出せばいいではないかと思うかもしれないが、事務所の損得を考えるなら、全部S席として売るのが最も合理的である。本来、チケットの価値は、ファン一人一人にとって違っている。S席の定価でも「割安」と思う方もいれば、「高すぎる」と思う方もいる。定価で買っていいと思う方には定価で売り、「定価は高すぎる」という方には転売市場で安いチケットを探してもらう、というのが、事務所にとってはトクだ。完売最優先で定価を下げてしまうより、転売市場を活用する方がいい。

だからといって定価を市場価格の平均より上げてしまったら、転売市場が死ぬ。

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私自身は、ファンクラブ会員ではない。一般販売分が蒸発するようなチケットは「自分より熱心なファンのためのもの」だと思って手を出さないし、ファンクラブ限定のイベントへ行くほど熱心でもない。当日券がたくさん出るような状況の公演に、何かのついでで行けるなら行く(当日になるまで行くかどうか明確に決めない)、みたいな付き合い方が基本なので。

チケット問題については、当事者というよりは、転売の是非という論点自体への興味関心で観察をしてきた。

チケットキャンプは1回だけ利用した。行けなくなった公演のチケットを定価で他の方に譲った。ぴあのリセール対象外のチケットだったので、仕方ない。手間賃を考えれば、定価で人に譲るのは全く損だと痛感した。かといって定価より高く売ろうとするとチケットキャンプに手数料を取られるので、「+500円」みたいな水準で売るなら定価で譲るのと同じであり、「+1000円~」あたりが相場になっているのは、まあ理解できた。

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転売市場の「当日価格」は、チケットショップの店頭価格。私が直接確認したものではありません。

2.

チケットの転売対策はいろいろな意見が出ていますが、私が思うに、転売市場を積極的に活用することにしつつ、チケットの定価を全体的に上げればいいと思うんですよね。つまりハロプロのようにしたらいい。

℃-uteのコンサートとか、一時は一般販売分が数分で蒸発していて、「なんで公演回数をもっと増やさないのか」と思っていたのだけれど、転売市場の当日価格が定価割れしていたりして、「あー、そうなのか」と納得したんですね。値上げしたら空席が出る。公演を増やしても埋まらない。たぶんそうなのだ。

ファンクラブ先行で大半のチケットが定価で捌けて、一般販売分も完売し、席毎の価格調整は転売市場に任せる。見事なものだな、と。チケット代でももちろん利益が出るし、ファンクラブの会費もしっかり回収する。転売市場には手間賃程度の利益しか渡さない。

でも、そんな販売方法だと新規のファンが困るじゃないか、と(一般販売分が蒸発するので買えない)。しかしそこはちゃんと対策があって、「ブログ先行」みたいな抽選方式のチケット販売もがんばっていたんですよね。ブログなどをチェックするくらいのファンなら、ファンクラブ会員でなくとも、早い者勝ちの一般販売に参戦しないでもチケットは買えるようになっていました。

一般販売まで何もしないくらいのファンは、たしかに困るといえば困るのでしょうけど。3月の「ひなフェス」など、会場に余裕があって当日券も確実に出るコンサートもあるので、そういう機会をご利用ください、って感じなんじゃないかな。あるいは、コンサートチケットは瞬殺だった頃も、ミュージカルなら当日券があったりもしたのでした。チケットのよく売れる仕事だけすればいいのに、と思ったこともあるけど、緩いファンの入り口を作りたかったのかもしれない。

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音楽系アイドルのミュージカルとかって何なの?意味あるの?って人もいるでしょうけど、私にとってはいちばん入りやすい入り口でした。徹頭徹尾、客はただ席に座っていればいい。身体を動かすのも、声を出すのも好きじゃない人にとって、安心できる現場なのです。何の予習も要らないうえに、ちゃんと物語が提供されるので、最低限の面白さは保証されている。一切何もわからないまま帰るということにはならない。

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世の中、たいていのチケットは売り切れない。売り切れないようなチケットが転売市場で高騰することがあるはずもなく、当然のように定価割れで売買されている。この場合、どんな観点からみても、転売市場が存在することで損をした人はいないと思われる。

ハロプロの例では、定価が市場価格より少し安い程度なら、転売市場が供給側と消費側の双方に有用なんじゃないか、と書いた。

定価が市場価格よりずっと安い場合には、供給側が転売市場を非難しているわけだが、私はやはり、そこには理がないと思っている。

チケットが定価の何倍もの価格で取引されるような一部のアーティストが定価を安く据え置くのって、不当廉売なんじゃないか。チケットを増やせないなら、本来彼らは、チケットをもっと高値で売って、適度に需要を減らすべきだろう。商品を供給できないくせに需要だけ抱えて離さないなんてことが許されていいのかね。あっちこっちに「ガラコン」に泣くアーティストが大勢いるというのに。身勝手ではないか。

転売市場は、そうした「不正」を是正しようとしているともいえる。

はてなハイクより転載)