「力を発生させるだけで筋肉が疲れるのはなぜか」問題にどう答えるか

id:cloq ファインマン先生の解説は、筋肉が「力を発生」させるために仕事が行われている、というもので、つまり「仕事なしにエネルギー消費はない、との原則は筋肉でも破られていない」が回答の本質かと。 - deztecjpのコメント / はてなブックマーク

どういうこと?

2019/10/21 14:33

b.hatena.ne.jp

id:cloq そもそもの問いが理解されていないように思います。

中3理科で、エネルギー保存則を学びます。

その内容を、今回の話題に適用しやすいように平たく言い換えますと、「仕事の発生なしに、エネルギーは消費されない」となります。

エネルギー保存則なのに、どうして「消費」が出てくるのか。それは、人が(再)利用できないエネルギーは、宇宙全体で見たら「保存」されていても、人間視点では「消費」ということになるから、と考えてください。

また、あとで登場する「疲れる」とは、ザックリいえば「エネルギーを消費する」という意味だ、ということにもしてください。「疲れる」はいろいろな解釈や説明が可能な現象ですが、この話題においては、「エネルギーの消費・消耗」とします。

 さて、「仕事」とは何か。中3理科水準でいえば、「力×距離」です。どんなに力が大きくても、全く動かなければ、エネルギーの移動は生じません。逆に、どんなに長い距離を移動しても、途中で力が加わることがなければ、やはり仕事はゼロで、エネルギーの移動はなかったことになります。

他人事だと思って聞き流せば何の疑問も生じませんが、自分の体験に引き付けて考えてみると、エネルギー保存則は奇妙です。

荷物を手で持って静止させていた場合、だんだん腕が疲れてきます。重力に逆らう力はたしかに加えているけれども、移動距離がゼロなんだから、仕事はゼロ。したがってエネルギーの消費はなく、腕が疲れるはずがない。

ではエネルギー保存則は間違っているのか。そんなことはありません。

机に荷物を載せたとします。机は重力に逆らって荷物を支え、静止させますが、そのためにエネルギーを全く消費しません。どこからもエネルギーが供給されないのに、机には反力が生じ、荷物を支えます。

世の中のほとんどのものは、このように、エネルギー供給なしに力を発生させます。と同時に、仕事を発生させるのに、エネルギー供給を必要としないものはありません。まさにエネルギー保存則は正しいのです。筋肉を除いては。

ただ、筋肉というのはみな自分の身体にあるもの。まさにみな、筋肉という反例があるために、エネルギー保存則なんてものが成り立つとは思いもよらなかった。力の発生にはエネルギーが必要、距離ゼロでもエネルギーが消費されるのは当たり前だよね、と思っていた。

だから、はてブでも大勢が「力を生み出すためにエネルギーを消費するのは当然でしょ?」という感覚でコメントをされていることに、不思議はありません。いちおう。

なぜ「いちおう」かというと、そういう素朴な感覚が誤りであることを、義務教育で私たちは学んでいるはずだからです。中3理科で、私たちはエネルギー保存則を学びました。そのとき、力の発生にはエネルギーが必要という常識を、打ち砕かれたはずなのです。

ではどうして筋肉は、仕事をしなくても、力を出すだけで疲れてしまうのか?

その答えは高校生物で学びます。生物を履修しなかった人は、ずっとわからないまま。

watson.daa.jp

詳細はリンク先をご覧いただきたいのですが、要点をかいつまんでいえば、人の筋肉が「力を出す」ために、たくさんの筋繊維がミクロな仕事をし続けているのですね。筋繊維が仕事をやめると、力が出なくなるのです(軟らかくなり非常に小さな力しか発生させられない)。

人体というのは、骨を抜きにすると、引っ張れば容易に伸び、押せば容易に凹む材質でできています。生命活動を維持できる範囲内では、受動的な反力の許容値は、とても小さい。死んでもよければ、人体だってペシャンコにつぶして乾燥させることで、何トンもの重量を支えられますが、そんな話は誰もしていないでしょう。

腕に支えられた荷物が静止している時、筋繊維が運動する「距離」は非常に短く、筋肉は一見、仕事をしているようには見えない。腕に力だけが発生しているように見える。けれども実際には、筋繊維がミクロな仕事をしています。その仕事によって、腕が固い棒のようになり、荷物を支える力が発生するのです。

というわけで、「仕事の発生なしに、エネルギーは消費されない」というエネルギー保存則は、筋肉においても破られてはいないのでした。

で、えーと、「どういうこと?」という質問に、最後に改めて回答します。

元記事の問い「物理学的に仕事量ゼロなのに、なぜ人は重いものを持ち続けると疲れるのか」を、私は「人の筋肉はなぜ、仕事をせずに、力を発生させるだけでエネルギーを消費するのか」という問いだと解釈しました。私の回答は、「パッと見にはわからないけど、じつは筋肉は仕事をしているので、エネルギーを消費する」です。

荷物を載せた机は、マクロではもちろん、ミクロでも仕事をしていない。正確には、荷物を載せたことで「机が少し縮む」という仕事が発生し、エネルギーが蓄積されますが、机は「そのエネルギーを消費して力を生み出し、荷物を支えている」のではありません。荷物を支える力自体は、どんなエネルギーも消費せずに発生しています。

「筋肉は力を発生させるだけでエネルギーを消費するのはなぜか」という謎への回答のポイントは、「じつは筋繊維が仕事をしている」です。「力×距離=仕事=エネルギーという関係は、筋肉においても成立している」ということです。

中3理科で学ぶ通り「エネルギー消費=仕事量=力×距離」です。ひもで鉄球を吊っている時、ひもは引力に逆らうのにエネルギーを使いません。なぜ筋肉は力の発生だけでエネルギーを消費するのか?が疑問なわけです。 - deztecjpのコメント / はてなブックマーク

収縮した状態を保つのにエネルギーを使うからでは???

2019/10/21 14:15

b.hatena.ne.jp

この回答が「回答になっていない」と私が思うのは、何がそもそもの問いだったかを忘れているからです。

「距離ゼロだから仕事ゼロ、なのにどうして筋肉は疲れるの?」

この根本の問いに対しては、「じつは距離ゼロではなく、仕事ゼロでもないからです」といわずして、答えにはならないでしょう。「収縮した状態を保つ」ため、という文言では、やはり「動きゼロ、距離ゼロ」に見えてしまう。「収縮した状態を保つために、筋繊維がミクロな仕事を繰り返している」といって初めて、疑問への回答になると思うのです。