ベーシック・インカムは何を代替するか

tetora2 さんのご懸念の点は、たしかに、BIが何を代替するかにかかっています。年金への公的補助が外れるかどうかが、焦点だと思います。

まず、BIの財源は「所得税」という案が有力。まあ所得再分配政策である以上、所得税以外の財源は考えにくいですね。当然、所得税は非常に大幅な増税となります。たくさん取るけど、たくさん配って差引ゼロだから許容してください、という論理になってます。つまり、従来の税体系のままBIをやろうというのではないのですね。

現在、所得税の税収は約15兆円。生活保護は4兆円、児童手当は2兆円、年金への国庫補助は11兆円です。BIが年金への国庫補助も代替すれば、所得税のBI目的税化によって、他のことに使える税収が、逆に2兆円増えます。(現在は所得税だけでは所得再分配政策の財源が2兆円足りていないことの裏返し)

だからむしろ、BIによって財政は2兆円分だけラクになる、と考えられます。(ただし年金への国庫補助がなくなることが大前提)

とはいえ、大幅な財政赤字の状況で、たった2兆円の何の意味があるのか。結局、医療保険への国庫補助の財源が足りないという問題は、BIとは関係なく存在する話。現在は、ほとんどの税収が利用目的未指定なので、財政赤字の犯人は「全員」となっていますが、所得再分配所得税が引き受けることで、残った支出項目が、まさに財政赤字の主役として目立つようになります。

おそらく、法人税が「その他全般」の財源、消費税が「社会保障」の財源というイメージが固まり、消費税をどこまで上げるかという話になるのではないでしょうか。

追記(2017-04-15 13:09:58)

個人的には、保険適用の範囲は、将来的に「狭まる」か、あるいは「医療費を節約できる新治療法・新薬以外は新たな保険適用を認めない」となっていくと思います。

借金で医療を充実させ続けるのは無理があり、どこかで現実と向き合う必要があるはずです。

究極の劇薬として、「事実上の病苦による自殺の許容」も、ありえます。癌もそうですけど、後遺症のある脳梗塞認知症など、長期的に多額の医療費・社会保障費がかかる病気の多くについて、幅広く当人の意思による死を認めるならば、医療費の劇的な削減が不可能ではなくなります。

財源不足による医療水準の押し下げ圧力と、自死の許容の綱引き。

追記(2017-04-16 06:49:08)

あ、違います。所得税だけで100兆円用意するってことです。ざっと、収入の半分を、所得税で取られる社会になるってことです。

追記(2017-04-16 15:50:56)

う~ん、なるほど。何かすれ違っているんですよね……。考えつつ、つらつら書いてみます。

たった15兆円の予算では、どう考えても「ベーシック・インカム」たりえないので、そういう提案は見たことがありません。なので、「所得税の15兆では月1万程度。しかも代償に生活保護や年金が消える」というのは、絶対にないと思います。そのような政策には、誰も賛成しないので。

増税なきBIはありえないから、大増税が無理なら、BIもないです。

ここで話を戻すと、同様に、社会保険を廃止するBIも、ありえない。そんなBIには、誰も賛成しないからです。一定の賛同が集まる可能性のあるBI以外の「BI?」を持ち出して、「だからBIには疑問」という話をされると、「そんなBIを推す人はいないと思いますよ」と、いいたくなるわけです。

無論、ネットには暴論・愚論もあります。まあ、BIなんて全部暴論だという意見もありましょうが、いちおうそれなりにまともな出版社から出ているマジメな本に登場するようなBIには、一定の枠があって、それはもちろん全員を説得できるような内容ではないものの、様々な懸念に対して一定の回答を用意した提案となっているわけです。だから、ヘンなBIを主張する人が世の中にはいることは認めるけれども、BIについてちゃんと考えている人が提案しているBIというのは、そんなに無茶苦茶なものではありません。

私はその枠の中で考えているから、「所得税の15兆では月1万程度。しかも代償に生活保護や年金が消える」という可能性は、最初から除外してます。どう考えたって、そんなの、現状維持の方がマシですからね。BIというのは、所得の再分配を大胆にやるというのが根幹であって、増税抜きのBIなんて、全くやる意味がない。だから、tetora2 さんがそういう話を持ち出されたのを見て、「いや、それは違いますよ」と。

所得税率は40%か70%か(注:議論を簡単にするため、という理由もあるのですが、BIの議論では所得税率はフラットタックスが想定されることが、けっこう多いです)、経費控除のルールをどうするのか、みたいなことがBI論者の考える「選択肢」であって、現行の所得税率のまま、みたいな話は「論外」。

健康保険の廃止も「論外」なので、それをBIの懸念事項とされると、「違いますよ」と。

で、先のハイクで私が書いたのは、「BIを導入すると健康保険が危機に瀕する」のではなく、「健康保険はもともと危機に瀕していて、それはBIとは関係ない」ってことです。

BIの財源は大増税で賄われるし、また、所得税収を上回る分配もしないから、財政的に中立。日本人全体の所得が減れば所得税収が減った分、BIも減る。現状は、所得税収より、所得再分配の予算の方が大きいので、むしろそのハミ出しがなくなる分、財政的にはラクになる。そういう理屈です。

でもまあ、tetora2 さんの言葉を読み返してみて、「BIを、社会保障の圧縮という視座で支持するような人々が多数派になるような社会では、社会保険の縮減は避けられないんじゃないの?」という懸念自体は、同意できます。

ただ、繰り返しになりますが、それはBIをやるかどうかとは関係ないです。BIは原因ではなく、同じ原因から生まれる、兄弟のような結果に過ぎない。

なお、私はBIを、社会保障の圧縮だとは思っていない。むしろ、大拡大だと考えています。分配の対象を弱者に限定せず、全員に再分配するわけですから。実際、大増税も伴うわけですし、より多くの人を所得再分配政策の受益者とする政策である、と。同時に、事務合理化の施策ではあると思っていますよ。また、国民生活の最低保証ラインが低下することも、認めます。3人以上が寄り添えば確実にBIだけで生存できますが、2人では、かなり無理があり、1人だと非常に難しい。「無職の一人暮らしは認めない」「経済弱者は家族を形成せざるを得ないが、それでよい」という意味では、私は「健康で文化的な生活」のボトムラインを、明確に下げる側に賛成していることになります。

とはいえ、実際には家族の強制とはならず、BI以外に収入のない人々が、最低限のプライバシーを確保しつつ共同生活をするようなビジネスが、普及していくのではないでしょうか。1人暮らしの最大のネックは家賃であり、個食ゆえの食費の高止まりなので、学校や会社の寮のような共同生活であれば、3~4.5畳の個室+共同スペース(ガス・水道関連は全て共同スペース)という住環境で、生活可能です。寮生活の経験者として、あれが「人道的に許されない生活水準」だったとは全く思えないことが、私の判断のベースにあります。

ナウルの事例などを考えると、BIで無職の一人暮らしまで可能になると、労働意欲の歴然たる低下は避け難いといった予想が、私の判断の理由としては挙げられます。また、人が家族を形成する理由は、もともとは経済的なものが主だったわけで、そこに回帰することは、人類史的には悲劇ではないと思っているからでもあります。無論、これには決定的に相容れない立場の方が大勢いることが予想され、BIが実現するかどうかの最大の壁は、増税そのものより、ここ(BIの水準を無職の一人暮らしが可能な金額とするかどうか)じゃないかと思う。単に再分配という意味では、所得税率は70%でもよいのですが、労働意欲の問題などを考えると、所得税率40~50%として、貧弱な、しかしやる価値のあるBI水準を狙うべきではないか、と。

追記(2017-04-16 17:21:19)

自分の中で盛り上がっている話題だったので勢いで長文を書いてしまいました。

勝手にたくさん書いただけなので、レスを求めているわけではありません。スルーで全然だいじょうぶです。

はてなハイクより転載)